* TALES *


孤独な月とラプンツェル

この唄を聴いて、どうか、私がここにいると、
たゆたう髪
見上げればいつも同じ天井
ひとりでいることに慣れてしまった
私はあなたを毎夜毎夜見ているというのに
此処から飛び降りさえすれば、私は自由を得られるけれど、
輝く月に、夢見るいつか、叶わぬ幻


眠り姫は不眠症

私の心は茨のように
ひとりでいたいと願ったのは私
悪い魔女よりも、醜いのはだあれ、
糸車のまわる音がカラカラと耳に残るので残るので
本当に欲しかったのものは
ここからいつか、外の世界に戻る日が来ても、
瞳を閉じて、心を殺す


不器用な魔法使いとシンデレラ

可哀想なお嬢さん、幸せにしてあげましょう
カボチャの馬車に、ねずみの白馬、足りないものは、
お望みのままに、と云いたいところだけれど、
ダンスは下手でも良いですか、
いつか見つけて、私を探して、硝子の靴を置いていくから
愛されたいと願ったのでしょう、
12時を過ぎてもとけない魔法


迷子の赤ずきん

この道が何処に続くのか、未だ知らない
嘘が下手なあなた
私を喰べたいのならまずあなたをかじらせて、
ワインとケーキと、私を届けに、
助けなんて要らないわ、これは喜劇。
お仕置きをしましょう
ねえ、ひとりでも大丈夫よ。私は、大丈夫、


泡を数える人魚姫

いつかいつか、私が人間であったなら、
愛してはいけないひとでした
この水はいつも心地よく、私を包む檻のよう
太陽を見たいと願った
素敵なあなた、醜いわたし、
あなたを殺して、私は生きる。
この泡が消えたとき、どうか、すべてを忘れて欲しい


アリスの我侭

甘いお菓子が食べたいの
逃がさないわ、君は私のものでしょう、
白い兎が逃げていく
狂ったあなた、御機嫌よう
ねえ、女王様。私はあなたが嫌いなの。
この世界は誰のもの、
すべてが夢だと云うのなら、きっと、私という存在も、


白雪姫は林檎が御好き

鏡よ鏡よ、この世が美しいと云うのなら、真実を見せて、
自分が生きていてはいけない存在だと、知った日から今日まで
見知らぬ私を受け入れてくれたのは7つの愛
玩具箱のような楽しい日々と、この夢がどうか終わりませんように、
あなたの愛は林檎のよう。毒を以て私を殺す。
召し上がれ、さあ、安らかに御逝きなさい
この世界と私をつなぐもの。それはただ、あなたの愛。


帰ってこない青い鳥 (ヘンゼルとグレーテル)

追いかけて追いかけて、触れられない青い鳥
迷子になったら手をつなごう
君の残した道標
御菓子の家の奥深く、あなたの心は見えやしない
君と僕とを捕らえる呪文
炎を纏って踊り狂う、あなたの最期を忘れない
取り戻したのが真実に、それが真実に平和な日々であるならば、


赤い靴で踊るなら

あなたとの離別と、あなたとの出遇いと
幸せの色は赤い色
燃やされたのは赤い靴と私の心
掴んだ幸福に浸り、沈み、堕ちていく
青白くなって冷たくなって、朽ちて死ぬまで踊るのみ
ああどうか、この両の足を落として下さいな、
私の心は死にました。輝かしい陽光と平穏と悦びと、ともに。