何回前かの夏の時分。
僕があなたに出会った、あの、頃。

僕はこれまで聞かされてきたすべてを信じていたし、何より、 疑うということの意味を知りもしなかった。 庭の木の名前も、秋になって葉が散る理由も、いつのまにか、 消えてなくなってしまった赤いゴムボールも(あれはそもそも誰のものだったのか) 無関心なまでに、扉の開け方のわからない飼い猫のように、 僕は、生きることにまるで無頓着だったので、 住み慣れた家や愛してくれた(であろう)家族と云うひとびとや従順な犬やそんなたくさんのものが、 いっせいに崩れてなくなった時だって、何も怖くはなかった。
すべては必ず無に還るものだと諭して、あなたが、僕の手を引いてくれたそのわけを、 僕は未だ知らないけれど、それでも、

紺碧の闇に散る橙の火の粉の舞うさまを、夢に見る。






はらはらと散るもの